事業計画/事業方針
2023年度 事業計画(2023年5月策定)
■事業計画の策定にあたって
2023年7月21日、当協会は創立40周年を迎えます。漢方・生薬事業を発展させるため、当協会を取り巻く多くの困難を乗り越え、歴史を積み重ねてきました。本年は、国民・医療関係者・行政・関係団体等に対し、日漢協の存在価値を改めて認識いただく絶好の機会ととらえ、40周年記念事業として式典、講演会、記念史等を準備してまいりました。日漢協の会則で掲げている通り、高品質な漢方製剤、生薬製剤および生薬について、「安定供給」「普及・発展の推進」「医薬品産業の発展と国民の健康への貢献」を実現するため、40年間積み上げてきた実績・経験を活かし、協会一丸となり国内外の課題解決を図ります。
高品質な漢方製剤等の安定供給
原料生薬は全体の8割超を中国から調達しておりますので、良好な関係を維持するため、定期相互訪問が難しい場合は、オンラインを活用した意見・情報交換の場を設けることにより、日中交流の懸け橋である中国医保商会との意思疎通を図ってまいります。また、原料生薬を継続的かつ安定的に確保するために、可能な限り調達産地の多様化が必要です。そのため行政や関係機関などの協力を得て、国産生薬の生産量拡大を進め良質な原料生薬を安定的に確保していきます。
また、製薬業界においては、未だに関係法令に違反する品質不正事例が相次ぎ、これに伴う業務停止などの影響により、安定供給に支障が出る事態です。原料生薬の品質を確保するため、日漢協版GACPの遵守体制を維持し、漢方GMPの体制強化や品質管理の徹底を図り、高品質な漢方製剤等を安定供給していきます。
さらに、医療用漢方製剤等が薬価の引き下げや原料生薬の価格高騰などにより不採算品となっていることで継続的な安定供給に支障をきたしかねない窮状を国や行政に働きかけ、不採算を解消するための普遍的な枠組みを整備していただけるよう発信してまいります。
新型コロナウイルス感染症オミクロン株の爆発的な感染拡大による解熱鎮痛剤等の出荷調整を受け、代替処方として風邪関連漢方製剤が想定をはるかに超える需要となり、治療継続中の患者様・医師への供給を優先すべく、一部の会員会社において限定出荷等の措置を実施しています。
協会としてはこれまでに経験したことのない厳しい状況と捉え、漢方製剤等の安定供給に向けた取り組みを一層強化してまいります。
漢方製剤等の普及・発展の推進
漢方製剤等のさらなるエビデンス集積と有用性の確立に向けて高齢者疾患、がん支持療法等、漢方薬が期待されている分野において医療経済学的研究助成事業を推進します。本事業を通じて、医療経済学的研究の研究者の発掘、研究領域の裾野の拡大および研究成果が本研究会や有力な学会等で発表・論文化されることによりエビデンス集積の加速につなげていきます。
また、一般用漢方製剤および生薬製剤の利活用推進に向けた取り組みは、セルフメディケーション税制の延長2年目を迎え、マオウ、ジリュウ、ナンテンジツが配合された漢方生薬製剤を含め対象製剤が拡大しております。さらにトウキやセンキュウが配合された漢方生薬製剤は女性の健康増進に貢献できるものも多く、より一層セルフメディケーションとして活用いただけるよう啓発活動を継続してまいります。
医薬品産業の発展と国民の健康への貢献
国民の漢方に対する認識は、まだ不十分と考えます。有益な市民公開漢方セミナーの開催・動画配信、日本東洋医学会と共催する「国民の健康と医療を担う漢方の将来ビジョン研究会」の定期開催など、関係諸団体・学会・研究機関・行政などとの連携をさらに強化し、国民へのアウトリーチ活動の充実を図ります。
また、会員会社のコンプライアンス体制の構築、再整備を推進し、企業倫理の意識を高めることにより、企業不祥事発生の未然防止を図るとともに、三役体制を一層強化することを会員会社に求め、漢方製剤等の品質管理、安全管理の信頼性をさらに向上させてまいります。
さらに、自然の恵みである生薬から成る医薬品を通じて国民の健康に貢献する団体であることを改めて深く認識し、「パリ協定」「SDGs」などの社会情勢を背景に、脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現に貢献していきます。
最後に
2023年度は創立40周年を迎えるとともに「漢方将来ビジョン2040」の第1期5ヵ年アクションプランの中間年にあたります。各組織においてこれまでの活動進捗を確認し、日漢協のあるべき姿の実現に向けて活動を邁進してまいります。
2023年度 日漢協「事業方針」
Ⅰ. さらなるエビデンス集積と有用性の確立
- エビデンスの集積
- 研究支援体制の構築に向け、関係機関への働きかけを行う
- がん支持療法(抗がん剤の副作用軽減)の研究による質の高いエビデンスを集積する
- 身体的フレイルに対する有用性研究を推進する
- 助成事業を実施し医療経済学的研究を加速化する
- 日本東洋医学会EBM委員会に協力し、「漢方治療エビデンスレポート」(EKAT)の公開を推進する
- 医療用漢方製剤等の診療ガイドラインへの掲載
- 医療用漢方製剤汎用30処方において掲載ガイドライン数の拡大を目指す
- 日本東洋医学会EBM委員会に協力し、「漢方製剤の記載を含む診療ガイドライン」(KCPG)の公開を推進する
- 漢方製剤等の安全性の確保と適正使用の推進
- 薬機法の求めに応じた製販業者における安全管理体制を構築し、安全管理監視の確実な実施を継続する
- 再評価結果通知事務連絡の適切な対応が実施できるよう、通期にわたった体制構築を継続する
- 漢方製剤に関する相談事例、苦情対応等の検討を実施する
- 医療用添付文書の新記載要領対応を2024年3月末の猶予期間終了までに各会員会社で完了させる
- 2021年8月1日施行の改正薬機法添付文書の電子的情報の原則化対応を、猶予期間2年にて完了させる
- 各種ステークホルダー(医療従事者、患者、一般消費者、マスコミ等)に応じた適正使用推進に関する情報提供資料の作成および情報提供を実施する
- 一般用漢方製剤の安全性情報に関連する研究や検討班活動への支援体制を強化し、安全性に関する情報提供充実につなげていく
- 適正使用の推進のため安全性・適正使用に関する内外との情報交換を行う
- 会員会社における一般用漢方製剤・生薬製剤の「使用上の注意」改訂等への迅速かつ確実な対応を推進する
- 会員会社の適正使用に資するプロモーション活動を支援する
Ⅱ. 原料生薬の継続的安定確保と国産生薬生産量の拡大
- 原料生薬の必要量確保
- 原料生薬必要量確保に向けて適正に対応する
- 原料生薬の使用量等調査などの実施により、原料生薬に関する流通実態を把握し、的確に対応する
- 国産生薬の生産量拡大に向け、生産量や価格等の調査・分析を行う
- 原料生薬の栽培化推進
- 原料生薬の国内生産の推進と拡大に向けた施策等を実施する
- 原料生薬(野生品)生産量等に関する調査を実施し栽培化を推進する
- 原料生薬の安定確保のための日中交流
原料生薬の安定確保のため、中国医保商会との相互訪問による交流会において情報交換等を行い、必要な働きかけを行う
Ⅲ. 原料生薬から最終製剤までの品質管理の高度化と製品品質保証の体制強化および医療用漢方製剤等の安定供給
- 原料生薬の品質確保
- 農薬について実態を調査し、的確に対応する
- 「生薬を管理する責任者」の育成に関する実態を調査し、課題把握を行い、育成支援を実施する
- GMPとGACPとの関連を明確にし、漢方GMPに反映する
- 原料生薬から最終製品までの品質確保と安定供給
- 会員会社に日漢協版GACPの遵守体制を調査し、課題に対応する
- 日局および局外生規への未収載生薬・単味生薬エキスの収載を推進し、既収載生薬・単味生薬エキスの改正に向けて的確に対応する
- 日局未収載および改訂予定品目の調査や意見等の収集を行い、改正に向けて積極的に対応する
- 原薬エキスの規格および試験方法の設定に関し適切に対応する
- 規制当局より発出される通知等に対し、継続的な啓発活動により品質システムの向上を図る
- 不純物を含む品質管理の新たな評価系に関する情報収集等に努め、高度な品質管理を目指し、製品の品質保証体制を強化する
- PIC/S GMP ANNEX7やWHO GMPガイドなど、国際整合の観点より動向を見極め進むべき指針を示し対応を図る
- ISO/TC249への対応
- ISO規格書を国際展開の足掛かりとするため、ISO/TC249の各種国内および国際活動にエキスパートを派遣、各国の提案に対し、国際委員会拡大会議にて各委員会に関連する業界の態度を集約し、当協会に対して有利な方向にISO規格書の内容を誘導する
- JLOM主催の主査会議に業界代表主査を2名派遣し、業界意見を表明することにより、日本全体の意見、投票態度に対して反映をさせる
- 中国医保商会、中医科学院中薬資源センターと共同でGACP関連の新規国際規格を開発する
- 医療用漢方製剤等の安定供給
- 漢方製剤・生薬製剤の基礎的医薬品への適用、生薬の基礎的医薬品適用品目の拡大のため、医薬産業振興・医療情報企画課との意見交換、折衝・相談・提案、日薬連・中医協委員等への説明を行う
- 漢方製剤・生薬製剤・生薬の不採算品再算定の実施に向け、結果分析・新たな対応策の検討、希望品目の取りまとめ、優先順位付け等を行う
- 通常薬価改定・中間年薬価改定に係る議論の情報収集・分析・整理・問題点の抽出および対応を行う
- 医療用漢方製剤等の最低薬価の設定に向けた対応を行う
- 給付と負担のあり方・薬価制度改革に関する社保審・中医協・経済財政諮問会議等の情報収集と分析を行い、必要に応じ適宜適切な資料を作成のうえ対応する
Ⅳ. ガイドライン策定に向けた医療用漢方製剤の新剤形開発・効能効果に関する研究の推進
- 漢方製剤等の研究の推進ならびに多成分系医薬品の承認申請ガイドラインの策定
- 2021年7月に発出された承認申請ガイドライン(新剤形追加)を周知し、会員会社での製品開発を促進する
- 承認申請ガイドライン(製剤処方変更(添加剤変更等))の策定に協力する
Ⅴ. 一般用漢方製剤および生薬製剤の開発推進と情報提供体制の強化
- 一般用漢方生薬製剤によるセルフメディケーションの推進
- OTC関連団体と連携した税制の普及と見直し、日漢協としてのセルフメディケーション普及活動を推進する
- セルフメディケーションの推進のため、公開講座・市民セミナーによる啓発活動を行う
- セルフメディケーションの推進のため、キー・オピニオン・リーダーとの関係を構築する
- 一般用漢方製剤および生薬製剤の開発
- 魅力のある新規処方の検討ならびに一般用漢方製剤の効能見直しのため、文献調査を行う
- 女性活躍社会の実現に資するよう当帰川芎製剤の承認基準制定に向けて、調査・調整を推進する
- 一般用漢方製剤および生薬製剤の情報提供の強化と広告
- 一般用漢方製剤のアウトリーチ活動強化のため、公的機関専門家への相談、アドバイスの収集を行う
- 生薬製剤の有効性・安全性に関する情報提供やOTC薬協・プロモーションコード委員会等を通じた自主規制を周知する
- 関係団体と協力して一般用漢方製剤・生薬製剤等の適正広告に関する情報の収集および共有、さらには提案を行い、協会内へのフィードバック体制を強化する
- 医薬品等適正広告基準遵守の徹底のため、一般薬連広告審査会の内容を情報共有するとともに広告研修会を開催する
Ⅵ. コンプライアンス遵守の体制強化と信頼性向上
- コンプライアンスの取り組みの強化
- コンプライアンスに関する講演会・研修会を開催する
- 会員会社において、コンプライアンス専任の担当部署または担当者設置を推進する
- コンプライアンス関連規範のモデルを作成する
- 会員会社の透明性ガイドラインの期限内公開を徹底する
- 販売情報提供活動監視事業報告書内容を共有するとともに会員会社の販売情報提供活動体制の整備支援を行う
- 三役体制の強化
- 薬機法の求めに応じた三役業務体制を構築し確実に実践する
- 会員会社が適正に対応を実施していくための連携体制を構築する
- 最新情報の共有化、教育訓練等を継続的に実施する
- 2019年薬機法改正の2年目施行(2021年)法令遵守体制、総括例外規定など制度改正事項へ対応する
- 適切な品質マネジメントシステムの運用促進を行い、製造業者と製造販売業者の連携強化による信頼性向上を図る
Ⅶ. 自然環境の保全・生薬資源の保護など地球環境や生物多様性へ配慮した事業活動の推進
- 地球環境に配慮した活動の強化
- 会員会社に環境活動への取り組みを実態調査し把握する
- 日薬連目標への参加数の増加や環境部会への参画を募る
- 2030年度の二酸化炭素排出量を2013年度比で46%削減する目標達成に向けて活動する
- 2025年度の産業廃棄物最終処分量の削減(2000年実績比75%)、廃棄物再資源化率60%以上に向けて活動する
- 2030年度の廃プラスチック再資源化率65%以上に向けて活動する
- 生物多様性条約など国際条約への適切な対応
- 国内外の絶滅のおそれのある野生動植物種の保存に関する条約・法律等を遵守し、必要な生薬の確保について対応する
- 安定供給に支障を来たすような事態が発生した場合、日薬連ワシントン条約関係連絡会と連携して対応する
- 生物多様性条約にもとづき、生薬輸出国の国内法を遵守し適切に対応する
- 漢方製剤等の国際展開の促進
- ISOを見据えて日漢協版GACPの見直し改訂を図る
Ⅷ. 産官学連携強化とアウトリーチ活動の充実
- 国民への情報提供とアウトリーチ活動の充実
- 「漢方薬に対する意識および経験に関する調査」に基づく新たなアウトリーチ戦略を踏まえた広報活動を展開する
- 効果的・効率的かつ継続的な情報発信を実現するスタンダードシステムの構築につながるよう、時代に即した情報発信手段の検討と検証を行う
- 協会活動に関する情報発信にあたっては、広報機能の強化・専門化を推進する
- 市民公開漢方セミナーの開催にあたっては、ハイブリッドで開催する等、社会環境に合わせた最適な方法ならびに内容を検討し、効果的に実施する
- 生薬および漢方の関連学会・大学とのコラボレーションの強化
- 漢方将来ビジョン研究会の提言や時代に即した内容(感染症関連、トピックスなど)を取り入れ、ビジョン研究会を開催し、国民の健康と医療を担う漢方の役割を関係諸団体、学会、研究機関、行政等へ広く認知させる
- 日本東洋医学会と連携し、学術総会シンポジウム開催および提言項目に関するエビデンスの公開に協力する
- 漢方将来ビジョン研究会提言項目に関して、各関連委員会と連携し、進捗状況の整理・把握を行い、研究会メンバーおよび関連団体へ定期的に情報提供を行う
- 生薬および漢方の関連学会・大学とのコラボレーションを強化する
- 関係諸団体、学会、研究機関、行政等との連携強化
- 漢方担当官の行政内配置の実現に向けて日本東洋医学会と連携する
- 製品情報概要審査結果を厚労省へ報告を行う
- 当帰川芎製剤など新たな生薬製剤の承認基準作りを通じて、アカデミア、研究機関、行政等との連携を拡大する