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日漢協 ニューズレター 56号

(第19巻 第2号)2002年9月

巻頭言  ゲノム創薬とテーラーメイド医療

厚生労働省
医政局開発振興課長

石塚 正敏
政府が2000年度にスタートしたミレニアム・プロジェクトにおいては、ヒトの遺伝子情報の解析により病気の発生原因や発症メカニズムを根本から解明し、痴呆、がん、糖尿病等、従来の手法では解決することが難しかった疾病の克服を目指しています。また、ヒトゲノムの多様性を解析することで、遺伝子レベルでの個人の体質の違いを把握し、個人の特性に合った診断・治療・予防、薬の投与が可能となり、いわゆるテーラーメイド医療の実現も期待できます。

遺伝子の違いが体質(個人差)を決めていることはよく知られていますし、実際、個人差に着目した医療手法は、既にいくつか導入されています。例えば、輸血の際には血液型を調べて同型の血液を輸血していますし、臓器移植の際もHLA(ヒト白血球型抗原)の合致する人同士で移植を行うのが通例です。

一方、服薬の場合はどうかといえば、適用禁忌といった例外はあるにせよ、同じ病気の人には同じ薬が処方されるのが一般的です。しかし、よく効くといわれる薬でも平均して3割程度の人には効き目が乏しいこと、一部の人にだけ重篤な副作用が出現することから、薬の利き方にも個人差−つまり遺伝子タイプの違いが存在することが分かってきました。

特定の薬がよく効く人と全く聞かない人を遺伝子レベルで分類できれば、治療成績を目覚しく向上させたり、副作用被害を大幅に減少させたりすることが可能となるはずです。薬を選択する時に、DNAチップに血液から採った遺伝子を流して自分の遺伝子のタイプを診断したうえで、最も適した薬を処方してもらうのです。これを自分の体格にぴったり合った注文服を仕立てることになぞらえ、テーラーメイド医療[オーダーメイド医療、パーソナライズ医療]と名付けられています。テーラーメイド医療が定着するには個人差に見合った多種類の薬の開発が必要でしょう。このため、遺伝子情報から新薬を創る「ゲノム創薬」をミレニアム・プロジェクトの一環として推進していますし、遺伝子の産物であるタンパク質と疾患との関係を調べるメディカル・フロンティア戦略事業も'01年度から開始しました。'03年度予算要求ではタンパク質の探索を網羅的に実施する疾患関連タンパク質解析プロジェクトを立ち上げ、創薬シーズの探索を強化していく計画です。一方こうして得られた創薬シーズを実際に医薬品として完成させるためのトランスレーショナルリサーチ('02年度)、大規模治験ネットワークの構築('03年度要求)などにも取り組みます。

21世紀にはゲノム創薬のように遺伝子情報から理論的に薬を創っていくという動きが本格化していくでしょう。しかし、だからといって従来の医薬品の価値が低下するというものでは決してありません。薬理作用機序が完全にはわからなくても有用性の高い薬は幾らでも存在します。漢方製剤もバイオテクノロジー等の活用により作用機序の解明が進められ、その価値が再認識されるようになるものと期待しています。