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日漢協 ニューズレター 101号

(第34巻 第2号)2017年10月

巻頭言  リアルワールドデータを活用した漢方薬・漢方治療の革新

厚生労働省 大臣官房
審議官(医薬担当)

森 和彦

昨年6月から医学雑誌NEJM が“Changingface of clinical trials” というタイトルで新しい特集企画を開始し、医薬品や医療機器の臨床試験・研究の考え方、方法論、結果の解釈の在り方、臨床開発を取り巻く環境などが大きく変化している現状を紹介しています。

この特集企画の編集には米国FDA の医薬品審査センター長も深くかかわっており、世界の薬事規制をリードして来たFDA も強い関心を持ち、臨床研究の変革の動きに対応し始めているように思えます。

NEJM の特集に掲載される論文に度々登場するのがリアルワールドデータの活用です。今や世界中の医療現場で日々行われている診断・治療により膨大な医療データが電子データの形で記録されています。そのデータの中には実際の医療現場で様々な状態の患者さんに様々な医薬品や医療機器を使用した際の治療効果や副作用・不具合の情報が含まれます。膨大な電子医療情報をビッグデータとして解析する方法が近年急速に発達し、実臨床の場でどんな治療がどのような患者さんにどのように役立っているのかが評価できるようになりつつあります。

もちろん、元になるデータが正確に記録されたものである事や電子データとして集計解析するためにデータの標準化を徹底して進める必要があり、また個々の患者さんにとっては究極のプライバシー情報を守りつつ活用する必要があります。そのための次世代医療基盤法が今年我が国でも制定されたところです。

さて、漢方薬は生薬に含まれる活性成分が多数に渡り、これを個々の患者さんの様々な状態に漢方の診断手法に基づき使用しています。つまり多成分の薬と個人差もあり、日々コンディションが変化する様々な患者さんとの膨大な組み合わせ相互作用の結果として効果も副作用も現れている訳です。組み合わせがあまりに多すぎて限られた症例数で実施する臨床試験だけでは評価が容易ではないことはこれまでの経験からも明らかです。しかし、元々漢方はこれまで長い年月にわたる臨床使用経験の積み重ねを元にして生み出されたものであり、急速に発展しつつあるリアルワールドデータを活用した臨床評価は漢方薬の評価においても有力な手法となると期待されます。これまでは最大でも数千人から数万人程度の特別な状態(臨床試験に参加できる状態であるという意味)の患者さんの限られたデータで行った効果や副作用の評価でははっきりと見えなかったものが、数十万から数百万人のより多様な患者さんの実臨床での診療データを活用することで読み取れる可能性があります。

我が国でも医療情報データベース基盤のMID − NET が来年度から本格稼働し始め、リアルワールドデータを活用した医薬品や医療機器の評価が可能となり始めます。この機会を逃さず新たな手法が漢方薬の臨床評価に応用され、多様な患者さんのニーズに合った適切な漢方治療の革新が進む事を期待しています。