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「冷え症は治らない」とあきらめていませんか?

漢方からみた冷え症


冷え症治療は漢方の得意技
冷え症の治療に漢方薬がしばしば使われます。冷え症以外にも、漢方治療が向いている病気に表4のようなものがあります。

これらの多くは全身状態が複雑に影響し合っていて、体の一部分を集中的に診察する西洋医学では、全体像を把握することが難しい病気になっています。漢方は、体全体を一つのまとまった機能としてみるので、こうした病気の治療に適していることが多いのです。こういう漢方の特徴が広く知られるようになり、最近では西洋医学の医師でも、約7割が漢方薬を使用していることが全国調査で明らかになっています(図2)。

冷え症も、ここまでみてきたように、体の内外のいろいろな原因が重なって起こる症状で、それだけに漢方治療の効果が期待できます。

漢方からみた冷え症の3つのタイプ
漢方は、患者さんの一人一人の体質や精神状態、全身状態をいろいろな尺度で把握して、それに合わせた漢方薬を処方します。ですから、一口に冷え症といっても、処方される漢方薬は患者さん毎に違うものになります。

体質や病状を表す尺度にはいろいろありますが、代表的なものの一つに「気・血・水」があります。気はエネルギー、血は血液とその働き、水は血液以外の液体とその働きのことです。漢方では、気・血・水が滞りなく循環しているのが健康な状態で、このうちのどれかに異常があると病気となって現れる、と考えます。ですから、治療ではその循環を正常にすることを目標にします。

冷え症を大きく分けると、1)熱の産生が十分でない新陳代謝低下型、2)血液の循環が滞っている血流障害型、3)水分の過剰や偏りがある水分貯留型、の3つに分けることができます(表5)。


コラム 舌で診る体の状態

漢方では、患者さんの体にさわる前に外見や声の調子、体臭など、五感を使って十分に観察をします。中でも漢方的なものに舌の観察があります。これを「舌診」と言います。舌の大きさ、色、湿り具合、苔、舌下静脈などの状態で、下のようなことがわかります。

新陳代謝低下型の冷え症
■ 特徴

このタイプにはエネルギー・熱の産生能が落ちているので、疲れやすく、温かい飲食物を好み、とても寒がりで風邪をひきやすい、といった特徴があります。

こういう人の舌を見ると、大きくはれぼったく、表面が白い苔のようなものに覆われていることが多く(図3)、これは、主に消化機能の低下を示しています。
■ 漢方治療の考え方

胃腸機能が低下していれば、まずこれを整える処方を考え、エネルギー不足を補う「補剤」と言われる処方がよく使われます(表6)。
血流障害型の冷え症
■ 特徴

このタイプはという、漢方的に見て血の循環の滞りが原因の冷え症です。指先やかかとが荒れやすく、顔色が悪く便秘気味で、痔核や月経痛があり、肩こりがひどい、などの症状が出やすいタイプです。舌は、どす黒いいろであったり、舌の裏の血管(舌下静脈)が青紫色に腫れているのを認めることもあります(図4)。皮膚の表面に細かい静脈が浮き上がったり、静脈瘤が見えることもあります。
■ 漢方治療の考え方

剤と言われる処方を中心に考えます(表7)。
水分貯蓄型の冷え症
■ 特徴

水毒といって、水分が体内に貯留しているタイプを言います。むくみやすく、頭痛、頭重感があり、尿が近く、めまいや耳鳴り、吐き気があるといった症状を伴います。下の両辺の歯形の痕が、水毒の目安になります(図5)。
■ 漢方治療の考え方

利水効果のある処方を考えます(表8)。
ストレスが関与する冷え症には気剤を
以上3つのタイプを基本に、症例ごとにいろいろな要素が加わって、実際の治療はもっといろいろなことを考慮しながら行います。

たとえば、眠れない、落ち込んでいる、イライラして怒りっぽい、といった精神的ストレスの影響が強いと判断される場合、気剤と呼ばれる種類の漢方薬を処方することもあります。気剤は、気の流れをよくしてストレスへの抵抗力をつけるもので、アロマテラピーのように香りのいい処方が多くなっています(表9)。漢方薬は飲む成分だけでなく、香りも大きな意味を持ちます。

コラム 更年期と冷え症

冷え症は女性に多い症状ですが、これは女性ホルモンの変化にも影響を受けます。特に卵巣機能が低下する50歳前後の更年期には、ホルモン低下とホルモンの環境変化によって惹起されるいろいろな症状に女性は悩まされます。

うつ状態、不安、不眠、イライラといった精神症状、のぼせ、そして下半身や手足の冷えが、更年期の代表的な症状です(図6)。のぼせと下半身の冷えという、正反対の症状が同時の起きることも珍しくありません。こうした更年期症状には、漢方治療が有用であることはよく知られ、西洋医学の臨床でも特に漢方薬が多く使われている分野ですが、近年では欧米でも更年期症状に対する漢方治療の有用性が注目されるようになっています。

本冊子監修の渡邉賀子先生が所属する慶應義塾大学病院漢方クリニックでは漢方女性抗加齢外来を設け、更年期症状の緩和、動脈硬化などの加齢変化の減速、加齢に伴う諸症状の緩和を目的に漢方治療を中心とした診療を進めています。