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漢方に教えられたこと、気づかされたこと

診断の基本は「気・血・水」

漢方には、脈を取る「脈診(みゃくしん)」や舌を診る「舌診(ぜっしん)」など、独自の診断法があります。さらに、お腹を触る「腹診(ふくしん)」というのは、日本漢方特有の方法です。脈や舌を診て、お腹を触ることによって、その人の「気(き)」と「血(けつ)」と「水(すい)」の情報が得られ、この三つの要素を判断するのが漢方治療になります。


【気】
まず「気」とは「元気」「やる気」といった言葉からも想像できるように、目に見えない生命エネルギーのこと。わかりやすい事例を紹介しましょう。
2013年の11月、関節リウマチとCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という肺の病気を抱えるAさん(60代女性)が入院されました。病院嫌いで、それまで治療をしていなかったと言います。154センチ、31キロと非常に痩せていて、全身の倦怠感と食欲不振を訴えていたため、ステロイド薬、抗リウマチ薬といった通常の薬物療法に、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」を追加してみました。補中益気湯は「だるい」、「しんどいな」というように、気が少なくなった「気虚(ききょ)」の状態の人に使用する薬で、「気」を補う「補気剤」と呼ばれる漢方薬のひとつです。アトピー性皮膚炎などにも効果があることが報告されています。
Aさんはメキメキ体力を取り戻し、体重は31キロから43キロに。現在はステロイド薬を使用しなくてもいい状態にまで回復し、元気に過ごしています。
お年を召されると風邪を引きやすくなったりとか、ちょっと動いただけでつらくなったりしますが、それは加齢や体力の低下でエネルギーが足りなくなっているからです。それを補ってくれるのが補中益気湯のような補気剤なのです。

【血】
「血」は、主に血液と考えていいでしょう。
乳がんの手術後のBさん(40代女性)の事例を紹介しましょう。乳がんでは術後にホルモンを抑える薬を投与するホルモン療法をすることがあり、Bさんもホルモン療法を受けられているとのこと。ホルモンを止めると排卵や生理が止まり閉経したのと同じ状態になります。イライラしたり、悩んだり、顔色も悪くなるといった、いわゆる「更年期障害」の症状が現れ、困っておられました。
Bさんに処方したのは最終的には十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)と半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)です。十全大補湯は、気や血を補う代表的な方剤で、抗がん剤治療の際に元気を補う漢方薬として良く使われます。また半夏厚朴湯は、不安の軽減作用がある薬です。
当初Bさんは落ち込みがひどくて泣いてしまうこともありましたが、漢方治療を始めると笑顔を見せるようになりました。
また、漢方には「瘀血(おけつ)」という考え方があります。わかりやすくいうと、ドロドロと血の流れが滞っている状態のこと。とくに女性は思春期に初潮を迎え、40代、50代に閉経するまで月経が健康状態に大きく影響します。たとえば月経痛とか、月経周期が短いとか、経血に血の塊があるという場合の多くは瘀血(おけつ)があると考えられますし、皮膚のシミや目の下のクマも瘀血の症状の一つとされています。また舌の裏側にある舌下静脈が怒張しやすい方は、血が滞りやすい体質を表しています。
炎症性腸疾患のCさん(30代女性)は最新の生物製剤を使っていますが、「瘀血(おけつ)」の状態で、月経周期にともなう乳房痛がつらいと言います。瘀血を改善させる代表的な方剤の桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)を処方したところ、乳房痛は解消しました。桂枝茯苓丸は月経痛やニキビにも効果がある薬です。

【水】
「水」は体の中を巡る水分を指します。膠原病のDさん(30代女性)の事例で紹介していきましょう。Dさんは「むくみ」「頭痛」「めまい」がひどく、2014年の4月に漢方外来を受診されました。めまいに効果がある苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)であっさり症状は改善しましたが、6月初めに梅雨が始まると「だるくてたまらない」といいます。実はジメジメとした湿気の多い時期に体調が悪化する方は多くて、「水」が悪さをする「水毒」になっていることが少なくありません。そこで水毒に効果がある五苓散(ごれいさん)を追加すると、だるさはなくなりました。
水毒の体質かどうかを判断するには、鏡で舌を観察してください。舌に歯のあと「歯痕」が付いている人は、体に「水」が溜まりやすい。五苓散や苓桂朮甘湯で、体にたまった余分な水を流してあげれば体調は良くなります。