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漢方に教えられたこと、気づかされたこと

漢方は「心」も癒す

漢方は「心身一如」、つまり「心」と「体」は一体のもので、分けることができないということを日々の外来で実感しています。

Fさん(70代女性)はかかとのカサカサで受診されましたが、なんとなく元気がありません。アレルギー体質もあったので、抗アレルギー剤のほか、手足の皮膚症状によく効く加味逍遙散(かみしょうようさん)を処方すると、足底がツルツルになり、だんだん表情も明るくなってきました。加味逍遙散は更年期障害の時によく使われる婦人科三大処方(他の2処方は当帰芍薬散・とうきしゃくやくさん、桂枝茯苓丸・けいしぶくりょうがん)で、不眠やイライラにも効果があるのです。

とても喜んでくださったのですが、私の中に少し違和感がありました。そんな風に思っていたある日、Fさんは、10年以上前に息子さんを交通事故で亡くされたつらい経験を話してくれました。漢方は皮膚もツルツルにしましたが、同時に、カサカサになった心も潤してくれたのではないかと感じました。

またGさん(60代女性)の漢方治療でも同様の経験をしています。Gさんは仲の良かった夫を突然亡くされ、大変なショックを受けました。不安を解消する抑肝散(よくかんさん)で多少良くなったのですが、簡単に立ち直れるわけはありません。外来で泣き出し、家でも寝る前に泣いてしまうような状態が続いて、どうにか治療できないかと逡巡していたとき、甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)がGさんのような人に効果があることを思い出し、「悲しくなったら飲んでみて」と処方してみたのです。

2週間ほど経った頃でしょうか。Fさんは夫の遺骨を入れたペンダントを胸に付けて外来に現れ、思い出を笑顔で話してくれるようになりました。ホッとすると同時に「漢方には涙を笑顔にしてくれる作用もある」と心から思った次第です。