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漢方の得意な病気

気血は健康の基本


気血とは
漢方医学で言われる「気血」とは、何を意味するのでしょうか。
簡単に言うと、人体の「もの」の部分が「血」で、「気」は目に見えなくて働きだけがある状態です。血が器で、その中身が気と言えばわかりやすいでしょうか。

気血の異常
気や血が満ち足りてスムーズに体を巡っている時は健康な状態ですが、気血を加齢や不摂生で消耗すると、体調不良や病気を引き起こします。
〜気の異常〜
気が不足した状態を「気虚(ききょ)」と言います。具体的には、体がだるい、気力がない、疲れやすい、日中の眠気、食欲不振、すぐ風邪をひく、物事に驚きやすい、目に光がない、音声に力がない、へそから下の緊張が落ちる小腹不仁(しょうふくふじん)という状態、だらだら下痢が続くといった症状が現れます。
気の流れが滞ると「気うつ」あるいは「気滞(きたい)」になります。具体的な症状としては、気がのどの部分にとどまって咳が出たり、お腹にたまって腫れたりします。手足にたまると、痺れが出ることもあります。
「気逆(きぎゃく)」も気の流れの異常の一つで、気が下から上に逆流した状態です。ゆっくり上がってくれば「のぼせ」になって足が冷えて顔が熱く感じられ、急に激しく上ると「動悸」になります。
一方、器にあたる血が衰えて「血虚(けっきょ)」になると、集中力が落ちる、眠れない、めまいがする、筋肉がひきつるこむら返り、過少月経、髪の毛が抜けやすい、皮膚がカサカサする、爪がガタガタする、痺れるといった症状が現れます。


治療の中心は「補剤」
漢方医学では気や血が足りない場合、これらを補って調整する「補剤(ほざい)」を治療に使います。補剤には補中益気湯(ほちゅうえっきとう)や十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)などさまざまな種類があり、現代の医療でも一般的に使われています。

代表的な補剤を紹介していきましょう。
最も多く使われているのが「補中益気湯」、別名「医王湯(いおうとう)」です。かつて中国では戦乱が絶えず栄養不良で病気になる人が多かった時代に、李東垣(りとうえん)という名医によって「胃腸の機能を補い、これだけでさまざまな病気がよくなる処方」として生み出されたと伝えられています。
補中益気湯が適応となるのは、手足がだるい、目に力がないなど、気虚の症状です。さらに口の中に白い泡が出る、食事の味がない、熱い物を好む、へそ周辺で動悸がする、脈に力がないといった自覚症状だけではなく、胃下垂や子宮下垂、直腸脱など、内臓を支える筋肉のたるみを引き締める作用もあります。
補中益気湯に関してはさまざまな研究がなされています。例えば肺の中にある肺胞のマクロファージのTNF-α産生が増えて、病気をもたらす菌をやっつける機能が高まるという報告があります。繰り返す気道感染症に使って悪化を防ぐことで、派生して起こる気管支炎や肺炎も予防することが期待できるとされています。またアトピー性皮膚炎や食欲不振、C型肝炎、男性の不妊症、抗がん剤の副作用の軽減などにも使用される場合があります。

補中益気湯と並ぶ補剤が「十全大補湯」です。いずれも動物実験ですが、食欲を増す、免疫抑制を改善する、抗がん薬の毒性を軽減する、がんの転移を抑制するといった報告があります。

十全大補湯とよく似た作用を持つ漢方薬に「人参養栄湯」があります。がんの肺転移を抑制したという研究結果が出ていますが、気血にかかわる不調に抜群の効果を発揮する場合があります。
例えば気血が巡らなくなると、体のあちこちが痺れたり痛んだりしますが、こうした症状は鎮痛薬を使ってもあまり改善せず、困っている人が少なくありません。そこで気と血、両虚の症状があって、痛みや痺れがある人に人参養栄湯を使ってみると、驚くほど良くなることがあります。
気血に原因があるので、痛みや痺れにしぼった薬でなくとも、気血を巡らせる薬を使えば、細部の痛みや痺れも良くすることができる。これが漢方治療の魅力の一つなのです。
気と血が両方虚している状態には十全大補湯や人参養栄湯が使われます。がんの患者さんではこのような状態がしばしば見られ、手術後になかなか体力が回復しない場合などに使われています。
一方、血虚の代表的な補剤は「四物湯(しもつとう)」です。四物湯は血を巡らせる栄養剤的な役割を持つ薬です。

補剤で少し注意していただきたいのが、補剤のうち7割に使われている「甘草(かんぞう)」という生薬です。甘草はマメ科の植物で、砂糖の50倍の甘さを持ち、醤油や飴などふだん我々が口にしている多くの食品に、甘味料として含まれています。
甘草には気分を鎮める精神面の作用だけでなく、循環状態を維持する作用や抗炎症作用、抗アレルギー作用もあります。甘草を原料にした抽出成分の注射薬は、肝機能やアレルギーの改善、鎮咳作用や抗がん作用を期待して使用されてきました。
しかし甘草は体の中の水を保つ働きが強いために、血圧の上昇やむくみ、カリウムが低下して筋肉が壊れるミオパチーなどの副作用もあるのです。
甘草が含まれている漢方薬を2種類以上飲むと、体内で甘草の濃度が高くなるので、複数の漢方薬を飲むときなどには注意する必要があるでしょう。例えばこむら返りに速効性がある「芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)」という漢方薬には甘草がたくさん含まれていて、血圧が上がったりむくんだりという危険がとても高いので医師・薬剤師の管理のもとで服用してください。
甘草が入っていない補剤もあり、「真武湯(しんぶとう)」もその一つと言えるでしょう。心不全や浮腫といった水がたまる病気の人にも使う場合があります。また真武湯には、心臓の力を高めて体を温める「附子(ぶし)」も含まれています。附子はトリカブトのことであり、トリカブトは毒草として知られていますが、無毒化して使っているので安心してください。