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漢方の得意な病気

漢方の診察方法


漢方特有の「舌診」
たくさん種類がある漢方薬の中から、どうやって適したものを選ぶのでしょうか。現代医学では血液検査や画像検査の結果を重視して診断し、治療方針を決めますが、漢方医学では独自の診断や治療を行います。現代医学でも診察では問診をしたり体の状態を見たり触ったりして確認をしますが、漢方医学の場合はさらに、「脈」「おなか」「舌」を観察します。舌を観察し、診断することを「舌診(ぜっしん)」といいます。
この3つの診察からは多くの情報が得られますが、今回は「気虚・血虚の舌」の典型的な所見にしぼって紹介しましょう。写真(※写真 1参照)は、苔状の「舌苔(ぜったい)」が左右非対称に付着し、縞状になっている「地図状舌」で、気虚の一つのパターンです。

もうひとつの写真(※写真2参照)も気虚特有の舌で、歯形が残っています。歯形はいろいろな理由で着きますが、気虚の場合は水が流れないので、歯の跡がつきやすくなってしまうのです。この方には六君子湯(りっくんしとう)が効きました。
3枚目は、舌苔がなくなったような「鏡面舌」の写真です(※写真3参照)。気虚だけではなく、血虚も併せ持つ人なので、補中益気湯では力不足。その先の十全大補湯か人参養栄湯で治療する必要があります。



「証」を見極め、薬を選ぶ
診断や治療方針の基準にしている漢方医学的病態を「証(しょう)」といいます。自覚症状と診察所見を総合して証が決まり、証をもとに最適な漢方薬を選ぶのです。 例えば腎不全で受診した方の証から「気虚」であると判断した場合、補中益気湯を処方します。同じ腎不全でも気虚でない方は補中益気湯の適応はありません。アレルギー性鼻炎、虚弱体質でも気虚の方がいる一方で、気虚ではない方もいて別の漢方薬で治療することになります。これを「同病異治(どうびょういち)」と言います。
また一つの薬をいろんな病気に使う「異病同治(いびょうどうち)」ができることも、漢方治療の特徴の一つです。みなさんよくご存知の風邪薬で有名な葛根湯(かっこんとう)は、実は風邪以外にも鼻かぜ、鼻炎、頭痛、肩こり、筋肉痛、手や肩の痛みなどにも使える場合があります。
現代医学では、通常それぞれの病気に対して薬を出します。例えば、高齢男性が頭痛や肩こり、高血圧、肝機能障害、高脂血症、夜間尿、腰痛、呼吸困難を訴えて受診した場合、それぞれの症状に薬を処方するため、何種類もの薬が必要です。
一方漢方治療では、症状がいっぱいあっても全部治そうとしません。まずどこを治さないといけないかを考えて、そこから治療を始めます。すると、治療対象にしていなかった症状まで良くなることが少なくありません。そのためたくさんの種類の薬を使わなくても済みます。

漢方医の大きな役割は、それぞれの病気の証と漢方薬、つまり適応条件をクロスマッチさせることにあると言っていいでしょう。そして、証が合っているかどうかは、症状が改善したかどうかで確認することができます。その治療により症状が改善することを根拠、あかしとして「証」の言葉の意義があるのです。

臓腑も証に関与する
ただし「気虚だから」「血虚だから」というだけで、漢方薬が決まるわけではありません。例えば気虚について考えてみましょう。
東洋医学では、気は親からもらった「先天の気」と生まれてから得る「後天の気」があり、それぞれの気がかかわる臓器(東洋医学では「臓腑(ぞうふ)」という)も違いますし、使用する漢方薬の種類も変わります。
先天の気は「腎(じん)」に宿ると言われており、腎は腎臓ではなく老いを司る臓腑を意味します。加齢に伴って腎の気が衰え、「腎虚(じんきょ)」という病態が生じます。腎虚の具体的な症状は、下半身に力が入らない、腰が痛い、夜おしっこが近い、足がしびれるといった、いわゆる「下半身の老化現象」で、男性では40代から始まり、女性は60代から始まるという統計があります。腎虚には「八味地黄丸(はちみじおうがん)」がよく使われ、下半身の症状だけではなく、息が切れる、ものが見えにくいといった症状にもある程度効果があると言われています。
一方、後天の気にかかわっている臓腑は「脾(ひ)」です。「脾」は漢方医学では脾臓ではなく、後天の気は大地から食べ物を通していただくことから、消化吸収の臓器を指します。消化器系の症状に効果がある補中益気湯と六君子湯は、後天の気を補う薬でもあると考えられます。