がん治療と一緒に漢方を
第16回 日漢協・市民公開漢方セミナー 2013年10月9日(水)「がん治療と一緒に漢方を」
芝大門いまづクリニック 今津嘉宏 先生 (資料は今津嘉宏先生提供)
日本のがん患者は年々増え続けており、将来二人に一人はがんになると言われています。今やがんは身近な国民病と言っても過言ではありません。死亡原因のトップという現実は変わりませんが、医療技術が目覚ましく進歩し、治る人も増えました。また、完治することは難しくても、がんと共存しながら生活できるようになっています。今回はがんにスポットを当て、漢方薬とのかかわりを紐解いてみたいと思います。
なお、現在「漢方」という言葉はいろいろな形で使われており、「本場中国の…」といった中医学のイメージが強いかもしれません。しかし医療業界では、「漢方=日本の伝統医学」であり、日本オリジナルの医学と捉え、英語でも「Kampo Medicine」と訳し、中国の伝統的な中医学の意味する「T.C.M(traditional Chinese medicine)」と区別しています。実際、日本の漢方は、中医学とは名前だけでなく、医学の理論体系も全く違うのです。
7年後の2020年に東京でオリンピック開催が決まりました。年を重ねるとともにさまざまな病気と上手に付き合っていくことが求められますが、みなさんが来るべきオリンピックイヤーを元気で迎えられますように。こんなところに少し気をつければ、あと7年間、さらに10年、20年健康で生きられる――そんな知恵をお話しましょう。
なお、現在「漢方」という言葉はいろいろな形で使われており、「本場中国の…」といった中医学のイメージが強いかもしれません。しかし医療業界では、「漢方=日本の伝統医学」であり、日本オリジナルの医学と捉え、英語でも「Kampo Medicine」と訳し、中国の伝統的な中医学の意味する「T.C.M(traditional Chinese medicine)」と区別しています。実際、日本の漢方は、中医学とは名前だけでなく、医学の理論体系も全く違うのです。
7年後の2020年に東京でオリンピック開催が決まりました。年を重ねるとともにさまざまな病気と上手に付き合っていくことが求められますが、みなさんが来るべきオリンピックイヤーを元気で迎えられますように。こんなところに少し気をつければ、あと7年間、さらに10年、20年健康で生きられる――そんな知恵をお話しましょう。
1.がん化学療法の副作用対策

重い副作用に体が持ちこたえられなくて、抗がん剤治療を続けられなくなってしまう患者さんも少なくありません。副作用の辛さと上手に付き合い、乗り越えていくことが、がん治療のポイントになるのです。
副作用対策に漢方薬が活躍
抗がん剤の副作用対策として、漢方薬が注目を集めています。がんを専門にしている医師を中心に、治療を受ける患者さんに漢方薬を処方するケースが増えているのです。従来は、腰痛などに使われてきた「牛車腎気丸」という薬もそのひとつ。
今から10年ほど前のこと、子宮がんや卵巣がんの治療に使われる抗がん剤は、ほぼ100%手足のしびれが出るとされ、この副作用を抑える西洋医学的な対策はありませんでした。しかし、ある婦人科医師が「牛車腎気丸を使うと改善する」といった内容の論文を発表したのです。
それを知った多くの医師が「手足のしびれに苦しんでいるがんの患者さんが少しでも楽になるなら」と、牛車腎気丸を投与するようになりました。そして、婦人科系のがんだけでなく、大腸がんや肺がんで使う抗がん剤の副作用にも効くことが判明し、現在はがん専門病院の医師を中心に牛車腎気丸の研究が進み、臨床の場で治療効果を上げています。
では、どのようなしくみで手足のしびれをやわらげてくれるのでしょうか。実は牛車腎気丸は「神経を守ってくれる薬」なのです。抗がん剤はがん細胞を殺す強力な薬ですから毒性があり、神経に悪さをして手足がしびれるのですが、牛車腎気丸は神経を真綿で包むように覆い、毒から守ってくれるのです。
2.手術後、退院後の体調管理に漢方を

治療の前まではふつうに歩いて食べていたのに、治療が始まると、歩けなくなる、食欲がなくなる、気分的にもすぐれない。治療が終わっても回復しないまま、というのは、よくあること。この状態を漢方では「気虚」と言います。「気」は、元気の気、気力の気、体力、食欲の4つを指し、「虚」は不足しているということ。身体が衰えている、体力も気力もない状態です。そこで漢方では、足りなくなった「気」を補う治療をしていきます。
気を補う薬(補気剤)の代表例は、十全大補湯と補中益気湯です。また食欲不振や胃もたれなど消化器症状が強い場合には、六君子湯が使われることもあります。
3.漢方製剤や生薬製剤の安全性・品質管理・副作用
漢方薬は、中に入っている生薬の種類や配合量によって、処方名が決められており、近年は生薬それぞれの薬理学的な作用が明らかになってきました。たとえば六君子湯を構成している生薬の一つ「陳皮」(みかんの皮)の主成分であるヘスペリジンは、コレステロールや血圧を低下させる、骨密度の低下を抑制する、不安を抑える、血管を補強するといったさまざまな作用が報告されています。日本の伝統医学である漢方に使われている原材料(生薬)は、多くが日本産や中国産のものが基本。へスペリジンも、「日本や中国で栽培される温州みかんの皮」に多く含まれています。同じ柑橘類でもレモンやバレンシアオレンジではダメなんですね。
漢方薬の効果は、昔の人が「これはなんとなくいいぞ」と経験的にわかっている程度で、実際に効いているものの、どのようなしくみで効いているのかわからないままだったのです。しかし、ここ数年の間に現代医学でその作用機序を証明できるようになったことで、守備範囲は広がりつつあります。また現代医学中心の臨床の現場においても、抵抗なく使う医師が増えてきています。
漢方薬は「薬」。自己判断は避ける

また、「個人輸入した漢方薬を飲んだら死亡した」「海外旅行のおみやげでもらった漢方のやせ薬で体調を崩した」といったニュースがしばしば報道され、不安に思っておられる方も多いでしょう。
実はこれらは、日本の医療用や一般用の漢方薬とは異なるもの。日本ではすべて、製造販売承認を得てから製品化されます。厚生労働省の基準はとても厳しいものですが、さらに製造する企業も日本漢方生薬製剤協会と日本製薬団体連合会が共同で作成した製造と品質管理に関する自主基準(簡単に漢方GMPと略されます)に準じてチェックを行い、処方する医療者も自主規制をしています。つまり3段階のチェックをしているということです。
原料の生薬についても厳格な取り決めがあり、それをクリアしなければ、医療用や一般用の漢方薬として認められません。漢方薬であれば、全国どこでも同じ、安全な薬だということが保証されているのです。
なお、漢方薬は薬局で直接購入するイメージが強いかもしれませんが、医療用漢方薬は西洋薬と同じように病院で医師の診察を受け、自分の体質や症状に合った薬を処方してもらいます。治療には健康保険が適用されます。(健康保険が適用されない医療機関もありますので、事前にご相談ください。)
また、漢方薬は体質に重点を置いて処方する薬なので、同じ病気でも合う・合わないが分かれてしまう場合が少なくありません。「この風邪薬は効いたからあなたにもあげる」などと親切心で使い回さないようにしてください。
4.がんにならないための「未病(みびょう)」対策
漢方には「未病」という概念があります。病気と言うほどではないけれど健康ではない、病気に向かいつつある状態のこと。病気になってからではなく、病気になる前の予防こそが大事なのです。生活習慣を見直し、病気に傾きかけた体を健康な状態に戻していきましょう。~食事~

また、がんの患者さんは、筋肉の量が少ない人と多い人では、多いほうが長生きするということがわかっています。がんの手術後に医師から「もっと食べて栄養をつけなさい」と言われた人は多いと思います。しかし食べることで脂肪は増えますが、筋肉は運動をしなければ増えません。がんの患者さんは、食べた上で運動することが大事。筋肉の増量が最終的な目標だからです。
食欲がないなど胃腸症状がある人に処方される「六君子湯」も同じです。がんのマウスのうち六君子湯を与えたグループは長生きをするというデータが出ていますが、六君子湯という魔法の長寿薬を飲んだから長生きをしたわけではありません。六君子湯を飲んでいると食欲が増し、そのことによって運動できるようになり、そして長生きをするという理論なのです。


【コラム】 ~舌を診れば胃の調子がわかる~
口の中の粘膜は食道、胃に向かって一続きになっています。そのため、舌を診ると胃の状態もある程度わかり、 漢方では「舌診」を体の状態を把握するための診断方法の一つにしています。セルフチェックとしても活用できます。

写真1:舌に苔のように付着物があると胃の調子が乱れている

写真2:歯形がついた舌は、むくみのサイン
~睡眠~

しかし短時間だからこそ、睡眠の質は高めなければなりません。そんな時によく使う漢方薬が、抑肝散です。イライラ怒りっぽい、不眠、中途覚醒に効く薬で、認知症でこうした症状が現れた場合にも使われています。睡眠の悩みがある方は医師に相談してください。
~便通~

漢方薬の大建中湯はこうしたセンサー異常に効果が期待できます。大建中湯に含まれている生薬は、山椒、生姜、薬用人参の3種のみ。この3つの絶妙な組み合わせが、おなかの温度や圧力のセンサーを正常な状態に戻してくれます。
そして半夏瀉心湯は、おなかのレスキュー隊です。通勤電車で急におなかが痛くなった時に飲むと、すぐに効果を発揮します。漢方薬はゆっくり効果が現れるイメージが強いですが、半夏瀉心湯にしろ大建中湯にしろ、速効性がある薬もたくさんあります。
~風邪に使う漢方薬~
風邪のときに処方される薬といえば「葛根湯」が有名ですが、それ以外にも「小青竜湯」「桂枝湯」「麻黄附子細辛湯」といった代表的な漢方薬があります。では4つのうち、どれを選べばいいのでしょうか。風邪をひいた時の最初の症状を思い出してみてください。「鼻がムズムズする」「のどがチリチリする」「だるい」「関節が痛む」といったさまざまな症状のうち、葛根湯は体力がある人で後頭部の辺りがなんかおかしいと感じる時、小青竜湯は鼻から症状がくる人、桂枝湯は体力がない人、麻黄附子細辛湯はのどの痛みから始まる人というのが大体の目安になります。

Q1 主治医に漢方治療についてたずねることは問題ないでしょうか? また、漢方薬を処方してくれる医師をどのように探せばいいのでしょうか?
最近は漢方薬に理解のある医師や、積極的に使う医師も増えていますので、相談してみてください。漢方薬に詳しい医師を探すサイトを3つ紹介します。◇日本東洋医学会 http://www.jsom.or.jp/
◇漢方のお医者さん探し http://www.gokinjo.co.jp/kampo/
◇Q life 漢方 Clinic http://www.qlife-kampo.jp/clinic/
Q2 漢方薬は長期服用することで、副作用が発現しやすくなりますか?
ビタミン剤でも風邪薬でも、薬である以上は副作用の可能性はあります。漢方薬も同じで1回飲んだだけで現れることもありますし、長期的に飲んで蓄積されることで発現する人もいます。何かおかしいと感じた時はすぐに担当医に相談してください。Q3 漢方薬は食前に服用するように言われましたが、食前と食後の服用では効果に違いがあるのでしょうか?
最新の研究では「漢方薬の有効成分が食べものの繊維質にくっつくと作用が弱くなる」ということがわかってきました。この結果から漢方薬を有効に活用するには、おなかにあまり食べものがたまっていない状態(空腹時)で飲んだほうがいいということになります。Q4 漢方薬は服用しづらいですが、飲みやすくする方法はありませんか?
漢方薬は独特の匂いがあり苦みが強いものもあるので、人によってはとても飲みにくいものです。飲めない時は、次の方法を試してください。- できるかぎり熱いお湯(80℃以上)少量(大さじ1杯くらい)で溶かす。1分かからずにサッと溶け、液体になると飲みやすくなるので、これで飲んでみる。匂いが鼻について飲みにくい場合は、氷を1個入れる。
- 1.で飲めない場合は、さらに抹茶やコーヒー、ココアを小さじ1杯程度混ぜてみる。漢方薬の味が少なくなるので、こどもでも飲みやすい。
- オブラートを使う場合は、漢方薬を包んだものを少量の水に2~3分浸し、のどごしのいいゼリー状にして飲む。