■漢方の診察
患者さんに適した漢方薬を選択する際に重要なのが漢方の診察です。特に問診をとても大切にしています。同じ頭痛でも、長時間パソコンに向かうと頭痛を訴える方や、雨の日や台風前などに頭痛が起こる方、寝不足で頭痛になる方、など原因も人それぞれ異なるからです。問診で患者さんの状態や症状の原因を詳しく探るのです。
次に脈診(脈の強さや速さ、拍動などの状態をみます)、舌診で、患者さんの体質や状態を確認していきます。腹診では、患者さんにベッドに仰向けになってもらい腹部を触診します。これらの4つ診察法(四診)で、患者さんの状態を総合的に判断して処方を決めていきます。
舌診における比較的分かりやすい所見を2つ紹介します。
▶歯痕舌(水毒の徴候)
歯痕舌とは、舌がむくんで舌の辺縁に歯の痕がついている状態です(図6)。水分の代謝が低下している(水毒といいます)可能性が考えられます。症状としてはむくみやすい、低気圧時の頭痛、吐き気、耳鳴り、全身倦怠感などがあります。物理的に歯が当たりやすい方などで歯痕舌の方もいますので、必ずしも歯痕=水毒というわけではありませんが、水毒の参考となる所見の一つです。
図6 歯痕舌の例
実際の症例を紹介します。
【症例1】
40代前半の女性で主訴はむくみ、頭痛、めまいです。舌をみると表面がテラテラと反射しており歯痕がみられました。症状や舌の所見などから水の代謝がうまくいっていないと考え五苓散を処方しました(漢方医学的所見:寒証[冷えがある]、水毒)。1か月後にむくみは軽減し、歯痕は変わりませんでしたがテラテラ感は消失していました。3か月後には頭痛、めまいも軽減してきました。
五苓散は水の代謝が悪いとされる水毒タイプの方に対する第一選択薬です。むくみ、雨の日や台風前のめまいや頭痛、のどの渇きで水分を多く摂ってしまう、などの症状に用います。
また同じ水毒でも、寒くなる季節に水毒の症状が悪化する方によい漢方薬として真武湯があります。冷房や冬に冷えると悪化する関節のしびれ・痛み、むくみ、めまい、ふらつき、冷たい飲み物で腹痛・下痢を起こすなどの症状を訴える方に用います。真武湯は冷えや痛みに効果のある附子を含み、別名「玄武湯」「温陽利水湯」ともいいます。玄は黒色の意味で、玄武は亀と蛇の姿でかたどられる北方の守り神です。附子の黒い色と冷えを温める作用が北方の神と一致して「玄武湯」と名付けられたとのことです。
図7 舌下静脈怒張
図8 細絡
▶舌下の静脈の怒張(瘀血の徴候)
舌の裏にある静脈が怒張している状態を舌下の静脈の怒張といいます(図7)。血液の流れが悪い(瘀血)サインと考えられています。瘀血の徴候としてほかに細絡があります(図8)。細絡とは、血液の流れが悪いと毛細血管が拡張して肌の表面に網の目のような細い血管が浮き出てみえる所見です。体のなかでも比較的やわらかい部分であるお腹、内腿、足首まわりなどに現れやすくなります。舌下の静脈の怒張や細絡があれば必ずしも瘀血であるということではありませんが、有力な所見となります。
ここで症例を紹介します。
【症例2】
20代後半の女性で、ひどい月経痛があります。そのほかにも、肩こり、頭痛、便秘傾向、体の上半身はほてるのに下半身は冷えるといった症状があります。舌診をすると舌下の静脈の怒張がみられました。血液の流れが悪い瘀血と考え、瘀血を改善する漢方薬を処方しました。1か月後には怒張が消失し、冷えを感じにくくなったとおっしゃっていました。おそらく下半身の血液の流れが改善された結果と考えられます。
【症例3】
60代女性で、冷えに伴う高血圧症があります。健康診断で高血圧を指摘されましたが、まだ降圧薬は飲みたくないとのことで漢方外来に来られました。太腿やふくらはぎに細絡がみられました。症例2と同様に瘀血と考え、瘀血を改善する漢方薬を処方しました(漢方医学的所見:虚実寒熱中間、瘀血)。2か月後には細絡がかなり薄くなり、血圧が低下傾向になりました。
症例2、3の方ともに飲んでいただいたのは桂枝茯苓丸加薏苡仁という漢方薬です。血流をよくする(瘀血を改善する)代表的な漢方薬の一つです。桂枝茯苓丸にハトムギであるヨクイニン(薏苡仁)を追加した構成となっていて、桂枝茯苓丸より血流を改善する効果が強くなっています。コロナ禍で外出する機会が減ったり、運動不足であったりすると血流の流れが悪くなり、肩こり、便秘、手足が冷える、下半身だけ冷える、目のクマがとれない、月経痛といった症状が出やすくなります。これらの瘀血の症状にとても有効な漢方薬です。