トウキ(当帰)

セリ科の多年草.日局トウキには,トウキ Angelica acutiloba Kitagawa とホッカイトウキ Angelica acutiloba Kitagawa var.Sugiyamae Hikino の大きく二つの系統がある.一般にトウキと呼ばれるものは,「オオブカトウキ」を指し,その名前の由来は,和歌山県境に近い奈良「大深」地方にちなむ.江戸時代からは「ヤマトトウキ(大和当帰)」として栽培が盛んになった.一方,ホッカイトウキとは,明治以降,北海道で育成された栽培種(由来に関しては定かではない)で,第8改正までは日局に収載されていなかったが,第9改正から「その他近縁植物」として含められるようになり,第13改正から,トウキ(つまりオオブカトウキ)とホッカイトウキに限定されるようになった.
本品は,補血,滋養強壮,鎮痛,鎮静の作用があるため,貧血,冷え症,月経痛などの改善を目的とした漢方薬に配合される重要生薬である.

原植物

1. 原産地又は分布
東アジアに分布
2. 植物形態
トウキは多年生草本で,茎は40~90cmで紫色を帯び,無毛.葉は互生,1~2回(根出葉はときに3回)3出羽状複葉,小葉は2~3深裂し,裂片は被針形で鋭い重鋸歯縁,基部はおおむね楔(くさび)形,葉面は濃緑色でつやがある.根出葉には赤紫色の長柄があり,茎葉では上部の葉ほど柄は短くなるが,いずれも葉鞘となり茎を包む.複散形花序を頂生し,多数の白色小花を開く.双懸果は長楕円形,長さ5~6.5mmである.花期6~9月.ホッカイトウキはトウキと比べ大型で,小葉の切れ込みが浅く,緑色が薄い.主根は太く長く側根はやや少ない.また葉柄や茎は緑色で開花時期は早いなどである.

生薬

1. 基原
トウキ Angelica acutiloba Kitagawa 又はホッカイトウキ Angelica acutiloba Kitagawa var. sugiyamae Hikino(セリ科 Umbelliferae)の根を,通例,湯通ししたもの.
2. 産地
日本(奈良県,和歌山県,北海道,群馬県,栃木県,岩手県,青森県 他)
3. 生薬の性状
本品は太くて短い主根から多数の根を分枝してほぼ紡錘形を呈し,長さ10~25cm,外面は暗褐色 ~ 赤褐色で,縦じわ及び横長に隆起した多数の細根の跡がある.根頭に僅かに葉鞘を残している.折面は暗褐色 ~ 黄褐色を呈し,平らである.
本品は特異なにおいがあり,味は僅かに甘く,後にやや辛い.
本品の横切片を鏡検するとき,コルク層は4~10細胞層からなり,その内側に数細胞層の厚角組織がある.皮層には分泌細胞に囲まれた多数の油道及びしばしば大きな隙間がある.皮層と木部の境界は明らかで,木部では多数の道管と放射組織とが交互に放射状に配列し,外方の道管は単独又は数個集まってやや密に配列してくさび状を呈し,中心部付近の道管は極めてまばらに存在する.でんぷん粒は単粒又はまれに2~5個の複粒で,単粒の径は20μm以下,複粒は25μmに達することがある.でんぷん粒はしばしば糊化している.
ヤマトトウキ(大和当帰)
ホッカイトウキ(北海当帰)
4. 成分
精 油:リグスチリド butylidenephthalide , safrole
脂肪酸:パルマチン酸,リノール酸
クマリン誘導体:bergapten,スコポレチン,xanthotoxin
5. 日局18規格値
純度試験 (1)重金属 10ppm以下
(2)ヒ素   5ppm以下
(3)葉鞘   3.0%以上を含まない
(4)異物   1.0%以上を含まない
灰分 7.0%以下
酸不溶性灰分  1.0%以下
エキス含量 希エタノールエキス 35.0%以上
6. 適用
主として漢方処方用薬であり,婦人薬,冷え症用薬,保健強壮薬,精神神経用薬,尿路疾患用薬とみなされる処方及びその他の処方に比較的高頻度で配合されている.また,生薬製剤においても,婦人用薬として配合されている.
7. 配合される主な漢方処方
胃風湯,温経湯,温清飲,乙字湯,帰耆建中湯,帰脾湯,加味帰脾湯,芎帰膠艾湯,芎帰調血飲,牛膝散,五積散,柴胡清肝湯,滋陰降火湯,滋陰至宝湯,紫雲膏,滋血潤腸湯,七物降下湯,四物湯,十全大補湯,潤腸湯,消風散,加味逍遙散,秦艽防風湯,清暑益気湯,清上蠲痛湯,折衝飲,疎経活血湯,通導散,当帰飲子,当帰建中湯,当帰四逆湯,当帰四逆加呉茱萸生姜湯,当帰芍薬散,当帰湯,女神散,人参養栄湯,防風通聖散,補中益気湯,薏苡仁湯,抑肝散,竜胆瀉肝湯 等

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名前の由来

  • 1)子供が出来ないために実家に戻された嫁が,当帰を服用して妊娠できる元気な体になって,婚家に「当(まさ)に帰る」ことができた,もしくは当たるために(妊娠できるように)帰ることができたという説.実家に帰った嫁が元気になり,夫のもとへ「当(まさ)に帰るべし」と母に言われたという話もある.
  • 2)病気で子供ができず夫に浮気された嫁が,当帰を服用して元気になり,しかも前より美しくなり,「夫,当(まさ)に帰る」ことになったという説.元気になった嫁が,浮気した夫に対して「当に我がもとに帰るべし」と言ったというのもある.
  • 3)出産のために実家に帰った嫁が,当帰を産後に服用して元気になり,婚家に「当(まさ)に帰る」ことができたという説.また,病気の嫁のため,夫が見つけた薬草で嫁を治したという説がある.等,いずれにせよ当帰が婦人薬として頻用されたことを示している.

その他

  • ①野生種では,ミヤマトウキ Angelica acutiloba Kitagawa var.iwatensis Hikino,ツクバトウキ A. acutiloba Kitagawa forma tsukubana Hikino が,それぞれ伊吹当帰,常陸当帰としてかつて市場で取り扱われていた.
  • ②中国及び韓国で当帰と呼ばれる生薬は,日局トウキとは基原植物が異なる.
    中国における当帰は,日本では唐当帰と呼ばれ,Angelica sinensis Diels を基原とする.
    韓国における当帰は,日本では韓当帰と呼ばれ,オニノタケ Angelica gigas Nakai を基原とする説,あるいはニオイウド Angelica uchiyamana Yabe を基原とする説がある.
  • ③栽培品の原種について中国からの渡来説があるが,この植物が中国に分布する記録が明らかでないことから,日本の野生種を栽培化したとの説もあり,17世紀の中期には,大和,山城で多量に栽培生産されていた.ホッカイトウキはトウキとエゾヨロイグサとの自然交配説と,トウキの変異説とがあるが,どちらかは明らかでない.
  • ④当帰の葉は浴湯料として用いられるほか,最近では食品としての活用がみられる.

基原植物について  ――北海道医療大学の高上馬准教授にお聞きしました――

  • ①ヤマトトウキは日本の野生種トウキが栽培化されたとするのが妥当と考えられる.
  • ②ホッカイトウキの基原については「ヤマトトウキと北海道産野生セリ科植物との交配種」など諸説があるが詳細は不明である.
    ホッカイトウキとエゾノヨロイグサなど関連セリ科植物とでは,植物学的に異なる点が大きく,交配種説は考えにくい.一方で北海道内にはホッカイトウキと形態や化学成分等の類似する野生トウキが各地に自生する.アイヌ文化でもこの北海道野生トウキは薬用などに利用されていた.このことから,北海道の野生トウキを基原としてホッカイトウキが栽培種として確立されていったものと考えるのが妥当であると思われる.
  • 補足):(北海道薬剤師会雑誌,vol28,No.8,15-17(2011))より抜粋
    ホッカイトウキの基原についてヒキノは,大正時代後期から昭和初期に,奈良県から北海道(北見,訓子府)に導入されたヤマトトウキと北海道東北部・斜里岳に自生のセリ科植物(ヨロイグサに似た山当帰と称するもの)との交配育種によってホッカイトウキが作り出されたと記述している.同様に「水谷次郎日記」には,昭和初期の北海道(北見)において斜里岳より採取したトウキのような植物とトウキ A. acutiloba を交配し,「白当帰」と称する種を作り出し,これがホッカイトウキと呼ばれるようになったとしている.これに対して秦野らは染色体観察による細胞遺伝学的研究から,エゾノヨロイグサ Angelica anomala Lallemant がホッカイトウキの交配親であることを否定した.このようにホッカイトウキの由来についてはいまだ明確な結論にはいたっていない.

生薬の品質を五感で判断する方法

  • • 大和当帰は,芳香や甘味が強く,辛味が少ない.また糖質が多く,柔軟性があり飴色をしており,一般に上質とされている.北海当帰は,味は辛味があって甘味が少なく,柔軟性に乏しく,もろくて折れやすい.
  • • 通常2年目の秋口に収穫するが,1年目でボールペン大に成長し,2年目の根頭部は径5~10cmに成長し,胴体は長く,肉質は充実し枝根の少ないものが良品とされる.時に,「ス」の入ったものがあるが,良品とは言えない.
  • • 花を咲かせたものは根が木質化し,劣品となる.

加工調製法

  • • 大和当帰は,収穫後ハザ掛けにより乾燥し,湯揉み洗い,その後,再度ハザ掛け乾燥により仕上げる.
  • • 北海当帰は,収穫後土を除去,水洗し,風乾するか又は加熱乾燥して仕上げる.

代表的な成分の構造式