ウィズコロナ時代のウィズ漢方
~Long COVID漢方外来からのメッセージ~

第24回 日漢協・市民公開漢方セミナー(Webセミナー)
動画公開期間:2022年2月19日~2021年3月20日

新型コロナウイルス感染症の後遺症~Long COVID~

福井 由希子 先生(順天堂大学医学部総合診療科学講座)

新型コロナウイルス感染症の後遺症~Long COVID~とは?
▶後遺症の主な症状と特徴
 新型コロナウイルス感染症(以下、COVID-19)について、発熱や咳などの初期症状改善後もさまざまな後遺症に悩んでいる方が多くいます。『COVID-19の後遺症に関する診療の手引き』(厚生労働省研究班)1)によると、WHOによるCOVID-19後の症状の定義は、「COVID-19に罹患してから少なくとも2か月以上症状が持続し、かつ他の疾患では説明がつかないもの」とされています。後遺症とされる代表的な症状は図1に示しますように多様です。
海外の報告(9,751例)1)では、COVID-19の診断後2か月、あるいは退院後1か月以降もなんらかの症状を訴えている患者さんは約72.5%にのぼります。内訳は上位から倦怠感が40%、息切れ36%、嗅覚障害24%、不安22%となっています。
国立国際医療研究センターの発表では、COVID-19罹患後に回復した457名のうち、4人に1人が半年後も1つ以上の症状が残っていました。時間の経過とともに症状の頻度は減っていくものの、1年後でも約10人に1人はなんらかの症状が残っています2)。発症直後も含め、一番多い症状はだるさで、以下、嗅覚障害、咳、息切れ、味覚障害となっています。
図1 代表的な症状
 長引きやすい症状もあるようです。図2は当院のLong COVID漢方外来の初診時の症状データです。来院される患者さんは感染後2-3か月以上経過した方が多く、症状は記憶力低下、脱毛、気分の落ち込み、嗅覚障害などが多い傾向です。嗅覚障害では、においが全然感じられないというより、いつもと違うにおいを感じる異臭症といわれるような症状での来院も多いと感じています。また、1人で複数の症状を有する方も多くいらっしゃいます。
感染した直後から現れる症状は後遺症と自覚されやすいですが、例えば感染から1か月以上経過した後に脱毛がおきると、COVID-19による後遺症かどうかご自身で判断するのは難しいかもしれません。後遺症なのか不安なときは、医療機関に相談ください。多彩な症状がみられるCOVID-19の後遺症には、現時点で確立された治療法はまだなく、症状ごとに治療を行う対症療法を行います。東洋医学では、それぞれの個人の体質や症状に合わせた治療を行うため、漢方薬は治療の選択肢となり得るという考えのもと、当院ではCOVID-19の後遺症に対する漢方外来を開設しております。
図2 当院外来の場合
Long COVIDの漢方治療
実際に当院で治療を行った患者さんの症例を紹介します。
〈注〉漢方医学の診療では、患者さん個人個人にあった処方を選択します。ここで紹介する症例の処方を、同じ症状の方に処方されるとは限りません。あくまでも処方例の1つとしてお考えください。
▶十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)で倦怠感(気虚(ききょ))と脱毛(血虚(けっきょ))を改善
【1例目】 40歳代 男性
主 訴 : 脱毛と倦怠感
現病歴 : 3か月ほど前にCOVID-19に罹患し他院に入院をした。入院中に嗅覚障害、呼吸苦、手足のしびれを認めたが、徐々に改善した。2か月ほど前から頭髪の脱毛と倦怠感が現れたため、当院外来を受診した。
処方薬・経過:罹患直後の症状が改善したのち、新たに別の症状が遅れて現れている点が特徴である。東洋医学的に体のだるさは気虚という気力が落ちた状態として、脱毛は血虚という状態として認識されるため、処方は両者を改善する漢方薬の十全大補湯を選択した。服薬から4週間後には徐々に倦怠感がとれ、さらに2週間後には脱毛も徐々に改善を認めている。現在も内服の治療は継続中だが改善傾向である。
▶多症状による不安・不眠に加味帰脾湯(かみきひとう)
【2例目】 40歳代 女性
主 訴 : 倦怠感、嗅覚障害、しびれ、筋肉痛、頭痛、不眠
現病歴 : 2か月ほど前にCOVID-19に罹患した。感染後1 か月ほどで倦怠感や嗅覚の障害、両上肢のしびれ、筋肉痛、頭痛、不眠の症状が出現した。他病院で鎮痛薬(アセトアミノフェン、プレガバリン)を処方されたが症状が改善せず、紹介で当院を受診した。処方薬・経過:症状の数の多さが特徴的で、そのことで悩み、焦りや不安から不眠に陥っている。このため、加味帰脾湯という不眠や焦燥感に効果のある漢方薬を処方した。鎮痛薬は継続しつつ、漢方薬を加えた治療を進め、2週間後には少しずつ症状が軽減した。6週間後にはさらに症状が減少している。
▶長びく咳を治めた補中益気湯(ほちゅうえっきとう)+麦門冬湯(ばくもんどうとう)
【3例目】 60歳代 女性
主 訴 : 咳、倦怠感
現病歴 : 1か月半前にCOVID-19と診断され他院に10日間入院した。退院後、胸のCT撮影で明らかな異常はないが、咳止めを飲んでも続く咳の症状に悩み、漢方治療も試したいと当院を受診した。
処方薬・経過:COVID-19から回復傾向にはあるが、長びく咳の症状による体力、気力の消耗が大きく、だるさの原因とも考えられた。漢方薬は、気力を補う補中益気湯、咳の症状には麦門冬湯を選択した。2剤の合方(ごうほう)で治療し、3週間後には咳の症状はだいぶ治まり、だるさもかなり軽減した。
 COVID-19による後遺症の治療に、漢方薬を取り入れることによって、治療の選択肢が広がっていると感じています。漢方薬と西洋薬を組み合わせながら、よりよい治療が行えればと考えています。
 なお、初診時には必ず血液検査や、必要に応じて画像検査のような西洋医学的な診断法を行うことで、後遺症以外の疾患が重なっていないか除外するようにしています。こうしてCOVID-19の後遺症以外の重篤(じゅうとく)な疾患がないことを確認したうえで、患者さんの体質や症状に応じて漢方薬を選ぶというステップを踏んでいます。
 当院では、今回の紹介した以外にも、かなり多くの種類の漢方薬を、患者さんに合わせて使い分けています。漢方薬による治療をご希望される際には、ぜひ医療機関を受診して自分自身にあった漢方薬を処方してもらうようにしてください。

漢方とは

原田 佳尚 先生(順天堂大学医学部漢方先端臨床医学講座)

そもそも漢方とは?
▶漢方は日本独自の伝統医学
 漢方とは中国から伝来した医術で、日本でつくられた言葉です。まだ鎖国していた江戸時代の後期、長崎の出島を通じて西洋の学問や文化などが入ってきたころ、オランダから入ってきた医術を「蘭方(らんぽう)」と呼ぶようになり、それと区別するために、当時日本で普及していた医学を「漢方」と呼ぶようになりました。
 現在は、東アジア各国で伝統医学が独自に発展しています。例えば、現代の中国で普及している伝統医学は中医学(ちゅういがく)や現代中医学と呼ばれています。日本の漢方と同じような薬を使い、共通点は多いものの、漢方と中医学は別の学問であり医療体系なのです。
文部科学省が定める医学教育モデル・コア・カリキュラム(医学生の卒業時の到達目標を示す)には、2001年に「和漢薬を概説できる」という文言が入りました。つまり、キャリア20年以下の医師は医学部で多かれ少なかれ漢方の勉強をしているわけです。
また、近所で漢方に詳しい先生を探すには、「日本東洋医学会」Webサイトで漢方専門医を検索するという方法もあります。
▶漢方医学の特徴
 漢方医学と西洋医学の大きな違いの1つに診療のプロセスがあります(図3)。例えば頭痛で病院を受診した場合、西洋医学では、まず頭痛に関する診察を行い、次いでCTやMRIを使って頭の検査をします。そして、なんらかの所見(異常など)が見つかると、診断がついて病名が決まり、それに伴い治療方法も決まっていきます。
図3 漢方医学と西洋医学の診療プロセスの違い
 一方、漢方医学の場合は、四診(ししん)(図4)という伝統的な診察方法で患者さんの証(しょう)(漢方医学的な診察により患者さんの状態を見極めることで得られた情報)を決定します。
証というのは漢方医学独特の考え方で、診察時の患者さんの自覚症状や、医師が診察した他覚的な症状などを漢方医学的に捉え、総合的に評価して下される病態の診断といえます。証の決定には伝統的な診察方法はもちろん、現代ではさらに西洋医学的な検査を加え、総合的に評価することが多いでしょう。
証が決まるとお薬も決まっていきます。これは日本の漢方の大きな特徴で、方証相対(ほうしょうそうたい)という言葉で表されます。方とは漢方薬を指し、「漢方薬」と「証」を対応させるという意味です。
図4 四診 4つの診察法
ウイルス感染症と漢方治療の歴史
 古くから漢方医学はCOVID-19のような急性のウイルス性疾患に対応してきた歴史があります。例えば、漢方医学における非常に重要な古典である『傷寒論(しょうかんろん)』(およそ1800年前に書かれたとされる医学書)には、傷寒(当時の急性熱性疾患)、いまでいう新型インフルエンザや腸チフスといった感染症の治療方法が示されています。診断法にはじまり、臨床的な経過や治療法則、薬物の使い方など、漢方医学の基本的な内容が全て備わっているとされます。実際に、現代でも使われている医療用漢方エキス製剤の50%以上は『傷寒論』に載っており、いわば感染症の治療マニュアルとして重宝されてきた書物です。
約100年前のパンデミック-スペインかぜ
 COVID-19の流行当初、話題に上ることもあった「スペインかぜ」も、日本は漢方での対応で効果をあげたという記録が残っています。スペインかぜとは100年ほど前に流行したA型インフルエンザ感染症のことで、世界的に大流行し、日本でも2,300万人が感染して、38万人近くが亡くなったとされています3)。
スペインかぜの漢方治療で代表的なものは、幕末から明治期に活躍した漢方の名医、浅田宗伯(あさだそうはく)が処方した柴葛解肌湯(さいかつげきとう)という漢方薬です。弟子たちがこの薬を用いて、患者さんから死者を出さなかったといわれています。また、一貫堂(いっかんどう)医学という流派の森道伯(もりどうはく)は、スペインかぜの病型を3分類し、それぞれに対応する漢方薬を考え、こちらも死者を出さなかったといわれています。
いずれも100年以上も前のことですが、この柴葛解肌湯を現代のCOVID-19に治療応用するといった臨床研究4,5)が、日本東洋医学会を中心に行われています。
COVID-19と漢方医学への期待
 COVID-19は、この2年ほどのあいだに、重症度の判定や治療方針などが、かなり明確に整備されています。こうした西洋医学的な治療を最優先しつつ、漢方もうまく使っていくことで、臨床経過がよくなる可能性は十分あるでしょう。
昭和期に活躍した漢方の名医の先生方の本には、当時の西洋医学で治せない病気を漢方で治したという治験がいくつも書かれています。もちろん、昔の西洋医学の技術は現代とは異なりますが、その時代の最先端の治療法で治せない病気を、歴史ある漢方が治療してきたことは事実です。現代でも、そのポテンシャルが活かされる可能性は十分あるでしょうし、そうした可能性は漢方薬を使う医師としても、また、患者さんにとっても希望になると考えています。

風邪・インフルエンザの漢方治療

齋田 瑞恵 先生(順天堂大学医学部総合診療科学講座/漢方先端臨床医学講座)

西洋医学の観点で見た、風邪、インフルエンザに対する漢方薬の効果
 インフルエンザの治療にもよく使われる麻黄湯(まおうとう)という漢方薬をご紹介します。
漢方薬の効果が西洋医学的観点から研究され始めてからまだ歴史は浅いですが、今回はランダム化比較試験(RCT: Randomized controlled trial)という、信頼性の高い研究をいくつか紹介します。
 まず、インフルエンザ治療で使われることが多いオセルタミビルなどの西洋薬と、古くから漢方で風邪の急性期に使われている麻黄湯との効果を比較した研究です。
2019年に行われたシステマティックレビュー(すでに発表されている様々な論文をまとめる手法の研究)では、麻黄湯はオセルタミビルなど西洋薬と同等の効果があり、特に大きな副作用などはなかったと報告されています6)。我々の行った研究でも、オセルタミビルなどの西洋薬と麻黄湯を用い、発熱や倦怠感、筋肉痛などインフルエンザの症状に対する効果を比較した研究があります。結果として、発熱期間に大きな差はなかったものの、関節痛では麻黄湯のほうがより効果がありました。
 また、患者さん自身が自覚される症状について検証していく臨床研究ではなく、細胞レベルで「どうして効果が出るのか?」を究明する基礎研究の分野でも、麻黄湯が構成される各生薬のサイトカインに対する作用についての研究7)などが進められています。
サイトカインは、ウイルスなどが侵入したときに体内で分泌される物質のことです。サイトカインによって体温が上昇するといった反応が起こります。このサイトカインへの作用を究明していくことで、生薬が持つ成分の効果を確認していくことができます。
 このほか、麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)という漢方薬の研究も進められています。この処方は特に高齢者の風邪によく用いられます。一般に風邪によく使われるPL配合顆粒(総合感冒薬)と麻黄附子細辛湯を比較した研究8)があります。症状の変化を比較したところ、PL配合顆粒と同じくらい麻黄附子細辛湯にも効果があったとされています。
 風邪やインフルエンザなどのウイルス感染症に対する漢方薬は科学的解明も進んでいます。今後も漢方のさまざまな研究が進み、この未知のウイルス感染の治療薬の担い手になることを期待しています。
順天堂医院のLong COVID漢方外来
▶開設の経緯について
 まだ新型コロナウイルス自体がよくわかっていなかった当初は、その治療に専念する時間が非常に多かったのですが、その後、感染後の後遺症で困っている方が大勢いることがわかってきました。今後「後遺症にどのように対応していくか」も私たちの大きな課題となっていきました。
後遺症の症状は非常に多岐にわたり、倦怠感や筋肉痛、関節痛など、臓器に特定できないような症状を訴える方が非常に多いです。そうした症状の治療に対し、漢方医学によって後遺症の症状を軽減できないかと考え、2021年10月、新たにLong COVID漢方外来を開設しました。
▶6割もの患者さんになんらかの後遺症
 COVID-19の発症から半年後でも約6割の方でなんらかの症状が持続するといわれています9)。当院外来によくいらっしゃるのは、倦怠感や微熱、神経の症状などを訴える方が多く、中には休職するほどに日常生活に支障をきたす人もいます。重症、中等症、軽症という分類があるとはいえ、軽症と診断された方でも後遺症が出るという報告もあります10)。ほかのウイルスなら、入院加療が必要となった場合で重症患者に後遺症が出ることは多いですが、COVID-19は軽症でも後遺症になることがわかっており、罹患後は誰にでも後遺症の可能性があるわけです。
図5は海外から発表11)された後遺症への対応策です。当外来は4、5番目の項目を担い、患者さんに寄り添うというところを目指しています。
図5 Long COVIDに対応するのに必要な5項目
▶順天堂医院Long COVID漢方外来の特徴
 当外来では西洋医学と東洋医学を融合した治療を目標としています。西洋だけ、東洋だけではカバーしきれないところに対し、両方を組み合わせた治療で患者さんをサポートできないかとの考えから、こうした理念が生まれました。
現在進めている主な研究(図6)として、1つには血清サイトカイン(細菌やウイルスが体に入ってきたときの反応として生じる)の特徴・性質などに関する解析があります。
図6 順天堂医院 Long COVID漢方外来の特徴
 具体的には、新型コロナウイルスと、インフルエンザウイルスやほかの風邪のウイルスとでの違いや、COVID-19の後遺症の特徴との関連性です。
当院呼吸器内科では、肺線維症などの後遺症の実態解明にも取り組んでいます。肺炎を繰り返すことで肺が硬くなってしまう病気を肺線維症といい、肺炎様の症状が非常に多いCOVID-19も原因のひとつとなります。肺炎の原因がCOVID-19とそれ以外の疾患による違いについての研究が行われています。
 腸内細菌叢(さいきんそう)も注目されています。COVID-19と腸との関係というと、疑問に思われる方もいるかもしれませんが、COVID-19の後遺症では、慢性疲労症候群と呼ばれる、検査で説明がつかない病的疲労や回復しにくい労作後の消耗などを呈する疾患との共通点が指摘されています。こうした病態と腸内細菌叢との関連性が報告されており、今後消化器内科との共同研究を検討しています。
 このように当科は、大学附属病院として各専門科との連携や共同研究も視野に入れ、外来診察を行っています。
【文献】
1)厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント 暫定版. 2021.
2)忽那賢志. 新型コロナ後遺症 4人に1人が半年後も何らかの症状、女性、重症が後遺症リスク 日本人457人の調査. 2021.
3)池田一夫ほか. 東京健康安全研セ年報. 2006, 56, p.369-374.
4)Arita, R. et al. Tradit. Kampo Med. 2020, 7(3), p.115-127.
5)Takayama, S. et al. Tradit. Kampo Med. 2020, 8(1), p.106-110.
6)Yoshino, T. et al. BMC. Complement. Altern. Med. 2019, 19(1), p.68.
7)Jiao, J. et al. Pharm. Biol. 2018, 56(1), p. 580-593.
8)本間行彦ほか. 日東洋医誌. 1996, 47(2), p.245-252.
9)Bjorn, B. et al. Nat. Med. 2021, 27(9), p.1607-1613.
10)Yong, H. et al. medRxiv. 2021. doi:10.1101/2021.03.03.21252086.
11)Steven, P. et al. N. Engl. J. Med. 2021, 385(7), p.577-579.
【参考文献】
日本漢方医学教育協議会編 基本がわかる漢方医学講義. 羊土社, 東京, 2020.