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漢方製剤・生薬製剤・生薬用語の英語表記
Recommended Terminology for Kampo Products,Conventional Crude Drug Products and Crude Drugs

II. 生薬用語 その2 >>II. 生薬用語 その1


生薬総則/general rules for crude drugs
日本薬局方において、 『生薬総則を適用する生薬及びこれらを 有効成分として含む製剤、エキス剤、チンキ剤、シロップ剤、酒精剤、リニメント剤、 坐剤等の製剤 (ただし、配合剤にあっては、これらを主たる有効成分として含む製剤)を 「生薬等」としてまとめ』 (JP)、 共通規則を定めたもの。

生薬試験法/tests for crude drugs
日本薬局方において、 生薬総則に規定する生薬に適用する試験法。 なお、15局の英語版では 〔5〕生薬試験法 tests for crude drugs の中に、 〔5.01〕生薬試験法 crude drugs test、 〔5.02〕生薬微生物限度試験法 microbial limit test for crude drugs がある。 〔5.01〕生薬試験法 には試料の採取 sampling、 分析用試料の調製 preparation of the test sample for analysis、 鏡検 microscopic examination、純度試験purity (異物 foreign matterと総BHC及び総DDT: total BHC’s and total DDT's がある)、 乾燥減量 loss on drying、灰分 total ash、酸不溶性灰分 acid-insoluble ash、エキス含量 extract content、精油含量 essential oil content の項目がある。

生薬名/crude drug name
生薬の名称。日本薬局方では 日本名 (正名) title name、英名 English name、ラテン名 Latin name、 日本名別名 (別名) commonly used name の順で記載される。
例1: ニンジン (正名)、Ginseng (英名)、GINSENG RADIX (ラテン名)、人参 (別名)
例2: センブリ (正名)、Swertia Herb (英名)、SWERTIAE HERBA (ラテン名)、当薬 (別名)

基原/origin, source
「きげん」をコンピュータ上で変換すると、「起源」 (あるいは起原) という漢字が表示される。 一方、日本薬局方では、「基原」という漢字を使う。 前者は、直接、間接を問わず広くルーツという意味がある一方、後者は、直接的な基原を意味する。 「起源」という漢字は、普通、「植物の起源は藻類である」という場合に用いる。 従って、起源植物というと、植物の進化の過程を考慮した場合に用いる。 一方、生薬の原材料である植物を狭義で意味したい場合には、基原植物を使う。 なお、生薬学の研究者の間では後者の意味で「基源」を用いる場合もある。 日本薬局方では、 生薬のもととなる動植鉱物 original plants、animals or minerals と その薬用部位を「基原」という言葉で表し、適否の判断基準としている。 基原植物という場合、original plant でも意味は通じるが、original plant source of crude drugという表現の方が誤解を受けにくい。

学名/scientific name
国際命名規約に従い、ラテン語で生物の種に付けられる世界共通の名称。 学名は属名 generic name +種小名 specific epithet +命名者名 author name で表される。 なお、生物によっては亜種 subspecies、変種 variety、亜変種 subvariety、品種 form などを付け加えることもある。 なお、栽培品種は cultivar と表現する。日本薬局方では、 この後に科名 family name を括弧で示す。属名、種小名、亜種などはイタリック体で表記する。
例1: オタネニンジン Panax ginseng C.A.Meyer (ウコギ科 Araliaceae)
例2: ナツメ Zizyphus jujuba Miller var. inermis Rehder (クロウメモドキ科 Rhamnaceae)

その他同属動植物/other species of the same genus
通例、同様の成分、薬効を有する生薬として用いられる原植物または原動物。 なお、15局においては、 生薬総則に「その他近縁植物」、「その他近縁動物」という言葉は残っているが、 現在では、熊胆にのみ「その他近縁動物」という言葉が使われており、 15局英語版では「その他近縁」を allied という言葉で表現している。

薬用部位/medicinal part
生薬として用いられる動植物の部位。 同じ原植物、原動物を用いる生薬であっても、使用部位によって名称が異なる場合がある。 例えば、クコの果実を枸杞子、根皮を地骨皮という。 日本薬局方収載生薬では下記のような部位のものがある。
花 flower、頭花 capitulum、花穂 spike、柱頭 stigma、葉 leaf、茎 stem/twig、根 root、根茎 rhizome、塊茎 tuber、塊根 tuberous root、 りん茎 bulb、全草 whole herb、果実 fruit、果皮 peel、種子 seed、仮種皮 aril、仁 kernel、樹皮 bark、心材 duramen、樹脂 resin、 貝がら shell、菌核 sclerotium、地上部 terrestrial part、地上茎 terrestrial stem、など。
なお、日本薬局方では規定されていないが、ニンジンやブシなどでは下記の表現が使用されることもある。
主根 taproot、枝根(側根) branch root/lateral root、細根 rootlet、子根 daughter root、母根 mother root、など。

全形生薬/whole crude drug
動植物の薬用とする部分を、切断せずに乾燥など簡単な加工のみを施したもの。原形生薬とも言う。 日本薬局方では全形生薬、切断生薬粉末生薬に分類されている。

生薬の性状/description (of crude drugs)
その生薬の特徴的な要素を記載したもの。 局方英語版やWHOのモノグラフでは description と表現されており、 外国の局方でも description と書かれる場合が多い。 ただし、一般的に生薬の性状を表現する場合には characteristics (of a crude drug) を用いた方がよく分かる。 生薬では「生薬の性状」の項に規定されている、におい odor、味 taste鏡検時の数値は適否の判定基準となるが、色 colorは判定基準とはならない。 化学薬品では「性状」は適否の判定基準とはならない。

鏡検/microscopic examination, microscopic identification
日本薬局方・ 生薬試験法〔5.01〕 microscopic examination で規定されている。 光学顕微鏡を用いて組織の切片 section を作成し、組織形態学的に観察すること。 また粉末生薬においても鏡検が定められている。特に同定を強調したい場合には microscopic identification を使う。

えぐい/acrid
咽を刺激するを指す。代表的な生薬としてハンゲがある。

充実している/dense in texture
生薬の内面の質が密でつまっていることを表す言葉。 生薬の選品において、品質の良否に用いられることがある。 局方ではハンゲとモッコウの性状に使われている。

腊葉 (さくよう) 標本/herbarium specimen
いわゆる植物の押し葉、押し花。用いた植物の記録、保証という意味で用いる場合は voucher specimen (証拠標本)を用いる。

鑑定/identification, authentification, evaluation
鑑別/discrimination
鏡検を用いた形態学的試験 morphological examination、目視検査 visual inspection、macroscopic examination や 色・味・においなど官能試験 sensory test、organoleptic test により、生薬の真偽、 優劣などを判断・評価すること。一般的には鑑定という言葉は judgement という言葉を用いる。 しかし、生薬の真偽を鑑定する場合には identification あるいは authentification、 生薬の優劣を鑑定する場合には evaluation という英語表現が適切である。鑑定を基に判別することを鑑別 discrimination という。

道地生薬, 地道生薬/genuine medicinal herbs produced at the original place
古来、植物がその土地の土壌や環境に適応して生育し、薬としての評価が定まっている生薬 WHO/WPRO用語集では“genuine medicinal herbs produced at the original place”について道地藥材 authentic medicinal として紹介しているが、 authentic medicinal を 単独で用いると誤解をうけやすいので、上記の定義を入れた後、“authentic medicinal”として用いることを推奨する。

偽品/counterfeit
生薬には基原が定められており、その基原に由来しないものを偽品という。 ただし、 counterfeit と言った場合には意図的に加えられた偽物を表す。一方、規格外のものを表現する場合には out of standards もしくは nonstandards を用いる。 例えば、ハンゲ中のテンナンショウは counterfeit でもあるが異物 foreign matterでもある。 生薬の偽物であることを強調したければ、 counterfeit crude drug とする。

代替生薬/alternatives to unobtainable crude drugs
植物・動物の分布などにより入手が困難な場合、近い薬効を持つ植物を本来の生薬の替わりに用いる場合がある。 例えば、ドクカツ Aralia cordada Thunberg (Araliaceae) はトウドクカツ Angelica pubescens Maximowicz の代替生薬であった。

摘芽 (てきが), 摘蕾 (てきらい) /bud picking, disbudding
地下部を用いる生薬で地下部の生長を促すために、花芽を取り除いたり、花を咲かせないように蕾を摘んだりする作業。

摘心 (てきしん) /pinching, topping
茎または枝の先端や生長点を摘み取る作業。例えばトウキの根の肥大化のため、茎の新芽をくり抜くことなどに用いられる。

加工調製, 調製加工/processing
わが国では、植物・動物・鉱物などを生薬とするために一次加工する意味合いで用いられる。 洗浄 washing/cleaning、皮去り peeling、切断 cutting、乾燥 drying、燻蒸 fumigation などを指すことが多い。 また、似たような言葉で「修治」があるが、「修治」は生薬の薬効の向上や副作用の低減のための加工法を指す場合が多い。 WHO/WPRO用語集 では、 炮製、修治、修事 processing of medicinals を“a general term for treating of medicinal substances by various means before their medical use”と定義/解説している。 WHO's GACP では、加工調製を processing、修治を specific processing としている。

収穫後処理/post-harvest processing
WHO's GACP では、 採取・収穫後の洗浄から修治までを含む全体の工程を指して用いられている。 収穫後の農薬処理も post-harvest processing の一種である。

選別/sorting, removing foreign matters
広義では sorting を用いるが、目視により、金属、石、ビニールひも、頭髪などの異物 foreign matter を取り除くことを指す 場合には removing foreign matters を推奨する。

分別 (等級わけ) /classification
通例、目視により、生薬をグレード別に分類すること。

汚損/contamination
汚染や混入などにより、生薬の品質が損なわれること。 WHO's GACP では“The undesired introduction of impurities of a chemical or microbiological nature, or of foreign matter, into or on to a starting material or intermediate during production, sampling, packaging or repackaging, storage or transport.”と 定義している。汚損物 contaminants と不純物 impurity とは同義ではない。

切断 (切裁) /cutting
全形生薬を小片、小塊に切断すること。切裁という言葉は切断 cutting と裁断 cutting をあわせた言葉であるが、 業界では、切裁という言葉に破砕 crushing も含めている。日本薬局方では、 大きさ/切度 degree of cutting により、粗切 coarse cutting、中切 medium cutting、細切 fine cutting に分けられる。

粉末化/pulverization, powdering
全形または切断生薬を粉末にすること。 日本薬局方では、粉末度 fineness of powder により、 粗末 coarse powder、中末 medium powder、細末 fine powder、微末 very fine powder に分けられる。

トレーサビリティ/traceability
追跡可能性。生薬においては栽培履歴を遡及できる状態にあることを指す場合が多い。